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小川隆広
おがわ たかひろ
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)歯学部終身教授
[1965年12月― ]
長崎県長崎市出身。県立長崎東高校卒業、1990年、九州大学歯学部卒業、歯科医師免許を取得。94年、同大学大学院歯学府博士課程を修了し、同大学歯学部助手として勤務。98年、文部省在外研究員として渡米し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)歯学部で約3年にわたってインプラント(人工歯根)研究に従事し、同時に補綴学(歯の修復、義歯、インプラント)を中心とした歯学教育を学ぶ。
九州大学歯学部助手を2001年に辞したため、途中、無給の苦しい研究生活を余儀なくされたが、UCLA助教授ポスト選考の推薦を受け、02年にUCLA歯学部助教授に就任。04年、顎顔面補綴専門医プログラムを修了し、同時にカリフォルニア州歯科医師特別免許を取得。新しいインプラント開発を可能にするインプラント分子生物学・ナノテクノロジーに関する功績が評価され、05年、異例のスピードで准教授に昇進すると同時に、優秀な大学教官に与えられる終身身分保障制度の「テニュア」を獲得。11年から現職。
2009年、インプラントの材料であるチタンが、空気中の炭素と触れることで劣化が起き、親水性が経時的に失われる現象、いわゆるチタンの生物学的老化を世界で初めて発見。劣化したチタンが骨を作り出す細胞を含む血液を弾くことによって、チタンと骨の接着強度の不足を招き、接着に要する時間も長くなることを明らかにした。
その後、チタン表面に付着する炭素の除去に取り組み、特定の波長の紫外線を照射すると、チタンが製造直後の親水性に富んだ状態に回復することを確認、動物実験で骨との接着力が約3倍に向上することを実証した。さらに、医療現場でチタンに紫外線を照射する装置を国内メーカーと共同で開発し、この「光機能化技術」を施したチタンを使うことで、通常の症例であれば、これまで90~92%だったインプラントの成功率を99%以上へ飛躍的に高めるとともに、インプラントを埋めてから仮歯を装着するまでの期間も平均6か月から同3か月へと大幅に短縮した。
光機能化技術の開発により、歯の土台となる骨造成の必要な複合症例や高齢などを伴う難症例など、従来、インプラント施術の難しい症例にも適用できる可能性を広げた。また、骨との接着力が強化されたことで、使うインプラントがこれまでより短くてすみ、手術の際、骨の中にある神経を傷つけるリスクを下げたり、骨造成の必要頻度を減らしたりできるなど、治療の安全性と信頼性を向上させた。光機能化技術を採用したインプラント治療は現在、日本が先行しており、今後、世界標準になるものと見られている。
2010年、歯科で最も権威のある学術賞のひとつである国際歯科研究学会ウィリアム・J・ギース賞、11年、アメリカ補綴学会最高学術賞、12年、アメリカ・国際インプラント学会ウィリアム・R・レイニー最高科学論文賞を受賞。国際歯科研究学会補綴部門会長などを歴任、日本の学術科学の新生を目指して08年、口腔先端応用医科学研究会を創設、会長を務める。
[杉村裕之]
[サイエンス&テクノロジー]
[2012年09月24日配信]
小学館ジャパンナレッジWho’s Whoの人名事典より出典